直熱三極管CX371(171A/71A) シングルエンド パワーアンプの製作

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真空管には以前から愛着があります。これまでに6BM8プッシュプルアンプと6005(6AQ5)シングルエンドの2台を製作し、6005シングルをリビングで常用していました。これ以上作っても使う場所がないのですが、もっと古い真空管、できれば光り輝くトリエーテッドタングステンフィラメント(トリタン)の直熱三極管シングルアンプを作ってみたいと思っていました。10数年前くらいからオークションサイトのeBayを使うようになり、RCAのUX-171Aなど71Aのもとになった1930年代のナス管が特性検査済みで手頃な価格で販売されているのを見つけました。この系統は開発当初トリタンフィラメントが採用されていたので探してみたところCunninghamのCX371(末尾-Aなし)が出品されていたので購入しました。その後「無線と実験2013年5月号」に171Aシングルパワーアンプの製作記事を見つけ、回路も納得のいく構成で、これをベースに作ろうと部品を集め、部品配置図まで書いてなぜかそのまま放置となっていました。

 

 

CX371とは

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Cunningham CX371

CX371はE.T. Cunningham Inc.の真空管ですが、オリジナルはRCAが1925年に発表したUX171で、トリエーテッドタングステンフィラメントのオーディオ出力用直熱三極管だそうです。英語版のWikipediaによると、E.T. Cunningham Inc.はElmer Tiling Cunninghamさんが1915年サンフランシスコに興したAudio Tron Sales Companyという会社がもとになっています。1919年に特許の無断使用でRCAに訴えられた結果E.T. Cunningham Inc.と名前を変えてRCAの傘下に入り、RCAの製品をCunninghamブランドで販売するようになったとのことです。なのでCX371はUX171そのものということになるのでしょうか。1926年には酸化皮膜フィラメントのUX171-Aが発表されているので、トリタン版は短期間しか製造されていなかったのかもしれません。

RCAとCunninghamのトリタン版はフィラメント定格5V, 0.5Aで酸化皮膜版は5V, 0.25Aです。 

回路

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回路図

基本的には「無線と実験2013年5月号」の171Aシングルパワーアンプと同じです。回路図はバックナンバーを参照するか、「無線と実験目次」で検索すれば見つかるかもしれません。回路構成はmT9ピン5極3極複合管6GH8の5極部が入力アンプ、3極部がカソードフォロアの全段DC直結で、カソードフォロアによるA2級駆動のため、一般的にはシングルで0.8W程度のところ1W程度の出力が可能です。また、出力管のカソードから抵抗で分圧したDC電圧を初段の第2グリッドに帰還させていて、全段直結で安定動作するようになっています。B電源の整流管はmT9ピン双2極管の6203です。

オリジナルの回路から一部変更したところは以下の通りです。

トランス類

ノグチトランス製を採用しました。

電源トランス:PMC-100M
電源チョーク:PMC-817H
出力トランス:PMF-6WS

電源トランス変更でB電圧が下がっており、出力が若干減るでしょう。

出力管フィラメント電源

元の回路はダイオードブリッジで6.3Vを整流して抵抗で電圧調整してありますが、0.5Aのトリタンと0.25Aの酸化皮膜版を差し替えられるよう、また半導体を使いたくない、究極的には面倒くさいので交流駆動にしました。これに伴いハムバランサが必要と思いますが、これも面倒くさいのでとりあえず固定抵抗の中点だしで、ノイズが気になったらあとで可変抵抗による調整部を付けるということにしました。 

シャーシレイアウト

シャーシは富士シャーシのNo.6R(280x60x190mm)です。図面はMS-Visioで書いています。

真空管ソケットは落とし込みにはせず、シャーシに直接取り付ける構造にしました。放熱穴も設けていません。シャーシ内部との通気は電源トランスの隙間だけなので放熱が少々不安ですが、作ってから確認します。

天板

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リヤパネルとフロントパネル

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レイアウトの確認

いろいろ悩んでこの配置にしたんだと思いますが、何年も前に作ったレイアウトなので部品を並べてもう一度確認。見た目はまあいいんじゃないでしょうか。置いてある出力管は酸化皮膜フィラメントのCX371-Aです。

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電源トランスの漏れ磁束が出力トランスに結合するとハムノイズが出るので確認します。電源トランスの漏れ磁束が出る方向に意図的に一直線に出力トランスを並べ、出力トランスは磁束が結合しない向きに配置してあります。100Vを電源トランスに接続、出力トランスにスピーカをつないでノイズが出ないことを確認しました。

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シャーシ加工

 シャーシレイアウトを実寸で印刷して天面に貼り付け、センターポンチで穴の中心にくぼみをつけてから、まずは小径のドリルで穴あけし、その後所望の寸法まで穴径を調整しました。

需要があるのか??ですが、実寸で印刷できるpdfを記事の最後に付けておきます。

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実際に部品を取り付けてみて、ネジ穴などずれたところはヤスリで調整しました。真空管ソケットの大きな穴はシャーシパンチを使いました。9ピンの最初の一箇所目の穴が小さすぎたのでヤスリでゴリゴリ広げました。2箇所目以降はシャーシパンチだけで綺麗に開きました。

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リアパネルです。電源の角穴は適当にドリルで穴あけしたあとハンドニブラで穴を広げ、見える部分に傷が入らない向きでニブラの加工ができない部分はヤスリで処理しましたが、これが一番手間がかかりました。電源トランスの大きな角穴はニブラが隅々まで入ったのでそんなに苦労しませんでした。

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部品を取り付けてみました。4ピン真空管の穴だけ、外から仕上がりがわかってしまうのですが、綺麗にできたので満足です。 

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これでシャーシ加工終了です。塗装はしません。面倒くさいしやったことがないので。。

作業時間は日曜の午後と平日帰ってから1時間くらいでできたと思います。

配線

まずは電源とヒータ・フィラメントを配線しました。

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アンプの細かい部分を配線しました。

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 出力トランスを配線して終了です。トランス類の配線は短く切断せず適当に束ねました。

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配線はそこそこ時間がかかりました。

完成  

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CX371 Single Ended Amplifier

 トリタンの輝きがいいです。銀色のゲッターが全面についていて明かりがあまり見えないのが少し残念ですが満足です。オーディオマニアではないので、音がどうか論評できませんが、MONITOR500Xというスピーカに繋いでとても良い音で鳴っています。負帰還なしのアンプがどんな感じか聞きたかったのですが、とてもいいです。いろんなジャンルを聞きましたが、低音バリバリのビヨークのCDがちょっとパワー不足な気がした以外は1W程度の出力で88dB/W/mとそんなに高能率でもないスピーカですが、十分大きな音で鳴ります。

ハムバランサなしでどうなったかというと、ブーンと聞こえますが気にならない程度なのでとりあえずそのままにしてあります。

放熱に関しては、写真のように底面に隙間もない状態で設置してほぼ1日使ってみて、シャーシ内部はほんのり温かい程度でした。出力管カソードの5kオームのホーロー抵抗がかなり熱くなっていましたが、まぁ大丈夫な範囲と判断しました。底部に足をつけて隙間をあければ余裕でしょうか。

 

原寸印刷可能なシャーシ図面のpdfです。

Top.pdf

Front_and_Back.pdf

 

2019年3月14日追記
回路の項目にKiCadで描いた回路図を追加しました。

 

2019年9月30日追記
特性測定結果をこちらの記事に載せました。

burro.hatenablog.com

 

2019年10月22日追記
B電源電圧を変更して入出力・歪特性を再測定しました。

burro.hatenablog.com